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福永武彦『忘却の河』


東京の空ってこんなに綺麗だったけ、とバスの窓から差し込む温かい日差しの中でおもった。空は海のように蒼く一点の曇りもない。これから、駅で妹たちとおち合って、80歳にして気丈にも一人暮らしをしている父の元に向かうのだ。いつのまにか恒例になった月一回の行事。これを娘なのに冷たいととるのか、元気なのだしわたしも忙しいのだから自然なことなのだととるのか、いつも迷う。どこかに後ろめたい罪みたいなものがつきまとう。
妹たちと家の側まで行くと、ガレージで父は車を磨いていた。
「すぐ終わるから、庭でも見ていなさい」と。

「忘却の河」は昨夜読み終えた。あまりにも人生の色合いが濃く、心を深く震わせる話にわたしは胸がつまったり、涙したり。そして、生きながらえるのは罪を重ねることという言葉が頭の中で廻ってしかたがなかった。
若かりし頃、わたしは福永武彦に凝っていた時期がある。だから読んだはずなのに、一度も記憶をさかのぼることが無くて、かなり情けない。もしや何か他の作品と間違えていたのだろうか。文庫の帯には「二度読む本」と書いてあった。あやふやな気持ちながらも、若い頃だったら今のように震えるような気持ちにはならなかったかも。心をえぐられ深く浸透しなかったかもしれないとおもう。

本編は、藤代という50歳を過ぎた男とその妻、娘二人、娘に思いを寄せる男などの視点から語られる7つの章から成り立っている。それぞれの中に潜む過去と幻影、そして葛藤、孤独。
とくに藤代が若い頃、恋人を裏切って死に追いやってしまった過去を持ち、ずっとその罪に苦しめられている姿が胸にせまった。わたしは女の身でありながら、彼が苦しんでいるぶん魂が救済されてもいいのではないかと心のどこかで震えながらおもっていたかもしれない。
そして、自分の周りにめぐらされた塀を軽々と越えて魂同士がおもいを伝え合えることができるのなら、家庭という檻も違う形になる。でもそれはすごく難しいことだなぁ、と、自分に引き寄せて考えざるをえなかった。
これは「東京には空がない」と言われていたころの話だ。でも生きていく焦燥感は今でも通じる。福永さんはその答えを放りっぱなしにするのでなく、そっと伝えているような気がした。

わたしたちは、整頓された部屋を見ながら母の仏前に線香をあげた。
母は生前、父の愚痴をよく言っていたけれど、亡くなる一ヶ月前は残される父の心配ばかりしていた。その父がお茶の支度をしている。
とても慣れた手つきだ。

JUGEMテーマ:読書


| いら | 読む | 21:57 | comments(2) | - |
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興味ありそうなので、今度読んでみたいな。
そろそろ春ですよ、お誕生日の月です!
年を重ねるのが早いこと早いこと!
おーい、そんなに急かさないでおくれーー。
| ぽち | 2008/03/09 9:21 AM |
ぜひ読んでみてくださいな。わたしも今度、実家にいったら他の福永本を捜してみようと思っているの。
あとがきに息子さんの池澤夏樹さんが書いているけれど、これがまたいいですよ。

>そろそろ春ですよ、お誕生日の月です!

毎年、歳をさかのぼることにしてますから!なんちゃって。
でも、ほんとーに早すぎて困っちゃうよね(笑。
| いら | 2008/03/09 10:53 PM |









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